代官山 蔦屋書店コンシェルジュ通信
代官山 蔦屋書店コンシェルジュが、週に1回、ポッドキャストやTwitter(X)で取り上げた本のこと、間室道子の本棚、イベントのお知らせや報告など、お届けするニュースレターです。どうぞお気軽にご登録ください。
週末は雪かも?と東京では珍しい雪を恐れていましたが、日曜日は朝から土砂降りでしたね。雨の日はカバンの中の本が濡れないかが一番心配です。そういう日に入れる本はなるべく薄い文庫か新書にしています。一日に読める時間はわずかなのに、なぜか毎日2-3冊持ち歩いているのは、職業病でしょうか。
今回は先週行われたイベントの様子から。
『マルクス解体』(講談社)刊行記念 斎藤幸平×高橋哲哉「危機の世界を問う人文学」開催しました。
いま注目の斎藤幸平さんのマルクス研究をまとめた初期集大成の理論と位置付けられている著作の刊行記念イベントで、高橋哲哉さん(哲学者で東京大学名誉教授)との対談。
イベントで初対面となるはずでしたが、高橋さんが事前に斎藤さんとの打ち合わせをしてくださったとのことで、和やかに始まりました。
代官山 蔦屋書店 1月19日開催イベント
会場も熱気につつまれ、オンラインでもたくさんの方がご視聴になっていた今回。
コンシェルジュ岡田、宮台、前のめりで聞いていた二人の終了後の会話から
宮台:熱いイベントでしたね、聞いてよかったー!斎藤さんは、サッカー少年だったのが大学に入ってから高橋哲哉さんの影響を受けたと話していましたね。ちょうどフランス現代思想がブームになっていて、高橋さんのようなデリダを研究しながら戦後責任、応答とはなにかーと思想と現実を接続することを考えるようになった、とか。
一方高橋さんご自身は、学生運動が収束されつつあった大学入学当時、まだ戦後、敗戦のにおいをかいできたというお話で、廣松渉による哲学史の講義のことなど世代や時代の空気感の違いが面白かったですよね。
岡田:こういう時代の流れに関する話はとても興味深いですね。一冊の本を読むとき、その著者の方が意識している先行世代や同時代人との関係を考慮すると、見えてくるものはとても多いです。
個人的には、アカデミックな哲学の中で、政治や社会に積極的に関わる人たちが少なかった時代に、高橋さんが率先してそれを行ったというお話が心に残りました。時代の流れがあるとともに、その中で勇気を持って動き始めた人たちがいるから、その流れも少しずつであれ、変化していくのだと思います。
宮台:「勇気」は今回心に残りましたね。それから印象的だったのが、ガザにしろ、沖縄、福島、原発にしろ、常に犠牲のシステムを外部化している状態で、今の私たちの豊かさが誰かの犠牲に成り立っているという、犠牲のシステムの話。わかっているようで、ちゃんと腹落ちしていなかったことを、グサリ指摘されたような感覚がありました。
岡田:本当にそうですね。原子力発電のためのウランを採掘するために、オーストラリアなどで先住民の方の生活環境が破壊されたり、健康被害があったりするというお話もあり、自分の視点から見えていないものがたくさんあることに気付かされました。北半球と南半球というレベルでも、日本国内でも、さらには自分の属しているコミュニティの中でも、どんな構造的な問題があるのか、まずは知っていくことが大切だと感じます。
宮台:斎藤さんが、高橋さんに聞いた「人文学の力を信じているかー」という質問は、本当に大きなテーマで核心をつくというか。
岡田:根本的な問いですよね。デリダやマルクスを通して、時代の当たり前を疑い、別の視点を提示していくことを実践されてきたお二人の姿勢は、私たちが哲学書を読む意義を照らしてくれるように思います。
私も、ちょうど人文書院さんの批評の座標という企画で、大学院時代の研究対象である西田幾多郎と三木清を、現代の文脈でどう読み直すか、という内容の文章を書いていたので、まさにこの問いが自分にも問われているように感じました(今月末、公開予定です)。
宮台:古典となるような本の中に現実社会を生きる私たちが今一度読み直し、参照すべき理論や概念をそこから見出す様々な試み、これからも注目していきたいです。そしてこの批評の座標のページ、岡田さん回も楽しみにしています。イベント終了後、会場では斎藤さんの『マルクス解体』(講談社)はもちろんですが、終了後高橋さんの『日米安保と沖縄基地論争 〈犠牲のシステム〉を問う』(朝日新聞出版)もよく売れました。今日もトークイベント、お疲れ様でした。
(岡田・宮台 2024年1月19日イベント後の会話を加筆しました。こちらの記事内容はコンシェルジュの感想です。ご了承ください。)
今週開催のイベント
1月24日(水)【オンライン配信(Zoom)】『その世とこの世』(岩波書店)刊行記念トークイベント出演:ブレイディみかこ・奥村門土(モンドくん)「本で開く「その世」への入り口」
本書は、谷川俊太郎さんとブレイディみかこさんの往復書簡をまとめた一冊。連載から本になるまでに関わられたイラストの奥村門戸さん(モンドくん)やその言葉と絵とじっくりと向き合い本という物体をつくられた装丁を担当した納谷さん、そして編集担当の渡部さんによるお話の予定です。オンラインのみですが、言葉と向き合うすべての人におすすめしたいイベントです。ぜひご参加ください。
ポッドキャスト「代官山ブックトラック」更新情報
コンシェルジュ通信Vol.2でもご紹介した若林恵・畑中章宏『『忘れられた日本人』をひらく 宮本常一と「世間」のデモクラシー』(黒鳥社)をめぐり、岡田が紹介しています。
「中世日本の村落にあった民主主義的な側面。それに注目した宮本常一の名著から、現代の民主主義を見直すヒントを探る刺激的な対談の書です。」
文学コンシェルジュ「間室道子の本棚」更新情報
【第256回】間室道子の本棚 『福家警部補の考察』大倉崇裕/創元推理文庫
今回は面白そうなミステリーのご紹介。「倒叙もの」(とうじょもの)というのがあると、初めて知りました。ぜひご覧ください。
1月~2月のイベント情報
1月31日(水)19時【イベント&オンライン配信(Zoom)】『「誰でもよいあなた」へ――投壜通信』(講談社)、『現代フランス哲学』(筑摩書房)刊行記念 伊藤潤一郎×渡名喜庸哲トークイベント「思想を語る言葉」
2月6日(火)19時【イベント&オンライン配信(Zoom)】『どうしても動き出せない日の モチベーションの見つけ方』(大和書房)刊行記念 角田陽一郎×松下りせトークイベント「自分を魅せるモチベーションの見つけ方」
2月8日(木)19時【イベント&オンライン配信(Zoom)】『野生のしっそう』(ミシマ社)・『日本人が移民だったころ』(河出書房新社)W刊行記念 猪瀬浩平×寺尾紗穂 「私と他者のあいだに、〈新しい線〉を引く」
2月13日(火)19時【イベント&オンライン配信(Zoom)】『NHK100分de名著 ローティ「偶然性・アイロニー・連帯」』『学びのきほん 哲学のはじまり』(NHK出版)W刊行記念 朱 喜哲×戸谷洋志「哲学のはじまり、いま、これから」
2月16日(金)19時【イベント&オンライン配信(Zoom)】代官山文学ナイト:「クラフト・エヴィング・ラジオ」第20夜 『羽あるもの』(吉田篤弘 平凡社)刊行記念
2月21日(水)19時【イベント】北田博充『本屋のミライとカタチ -新たな読者を創るために-』 刊行記念トークイベント
本書を書いたのは、梅田 蔦屋書店の店長を務める傍ら、出版社としての活動も続けている北田博充さん。ちらり情報を拝見したところ、「本屋」とは何か、と問い直すことから始めて「本屋」の本質を探り、その新たなミライとカタチを探る一冊のようです。出版関連のみなさんはもちろんのこと、本を読む人、お客様みなさんにも、新たな気づきが得られるお話しが広がりそうです。お楽しみに!
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